コラムColumn

2021.06.08個人法務

「親が援助した住宅購入資金と財産分与について」

財産分与(民法768条)とは,夫婦が婚姻中に協力して築いた財産を,離婚時に原則2分の1ずつ夫婦が分け合うことをいいます。ここにいう「夫婦が婚姻中に協力して築いた財産」には,当然夫婦で住んでいた持ち家も含まれますが,持ち家の購入にあたり,夫婦どちらか一方の両親が住宅資金を援助した場合も,原則2分の1になってしまうのでしょうか。

この点,実務では,援助金を親からの援助を受けた側の特有財産として取り扱うことに争いはありません。具体的な計算方法は,①家の購入価格の内,援助金の金額が占めていた割合を求める,②現在の家の価値(査定価格から残ローンを引いた金額)に①の割合を掛け,その金額を特有財産の保持者が優先的に取得する,③残額を2分の1とする,という方法です。

もっとも,親が援助した金額に比べ,現在の家の価値がそこまで高額とならない場合,上記のような計算方法で取得分を出しても,援助した側にとっては納得のいかない結果になってしまうこともあるでしょう。

当事務所にも,現在の実務上の取り扱いを理解しつつ,それでは親御さんが夫婦を思って支援してくれた気持ちを台無しにしてしまう,と悩み,ご相談に来られたお客様がいました。以下,Oさんとします。

相談時,Oさんの親御さんが援助した経緯や,家の購入時から期間が短いにも関わらず,分与額は援助資金の半分にも満たない金額となってしまうこと,離婚の原因が相手方にあること,といった事情を聞き,弁護士としても,実務上の計算方法をそのままOさんの事件に適用してしまうことに違和感を抱きました。

そこで,離婚調停を申し立てた際には,実務上の取り扱いにとは離れてしまうものの,まずは住宅ローンの全額の返金を離婚の条件に提示しました。

当然,相手方も最初は頑なに認めず,調停委員も実務上の取り扱いから離れてしまうことを説明されました。しかし,調停は,話し合い(調停)の段階であり,当事者が納得する条件を模索する段階です。そこで,Oさんの親が援助することになった経緯やその金額,離婚の原因を説明し,実務上の計算方法によって財産分与をすれば,それは離婚を強いられたOさんにとって,とても不公平な結果になることを訴え続けました。

その結果,調停委員の方も徐々にOさんの気持ちに理解を示してくれるようになり,「この事件の解決とは何か」と個別具体的に検討してくれるようになりました。相手方へも,調停員を通じ,Oさんの気持ちやOさんのご両親の気持ちを伝え,自身が招いた結果について考えさせるようにしました。

そして,とうとう,相手方から,親が援助した金額の約9割を返金する提案がされ,無事に離婚条件について合意することができました。

このようなOさんの解決はイレギュラーではありますが,「実務上の取り扱いだから・・。」と諦めず,なぜ実務上の取り扱いをそのまま適用することが本件ではなじまないかを,丁寧に説明したことで良い結果が導けたものと考えています。相談時に感じた違和感,価値判断を信じることの重要性を学ばせていただいた事件でした。

今後も,当事務所では,お客様の望む結果を導けるよう戦略を考え,粘り強く交渉してまいります。まずは,一度ご相談ください。

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